この映画を鑑賞、ましてやソフトを購入しようとする人ならば当然にご承知のことと思われるが、70年代に誕生したホラー映画の一大革命「ゾンビ」を扱った「サンゲリア」を手掛け大ヒットさせたのを皮切りに、「地獄の門」「ビヨンド」など残酷シーンを積極的に取り上げた作風で「イタリア残酷映画の帝王とも称される名監督「ルチオ・フルチ」の晩年の作品。
この作品はTVムービーのようだが、ルチオ・フルチの晩年は、イタリア映画界で巨額の予算を賭けたホラー作品が制作できなくなり、更にフルチ自身が持病の高額医療費の支払いのため作品を選ばず制作に邁進したのだが、低予算ホラーの限界もあって作品の質の低下が見られるのは有名な話。この映画のジャケの作品紹介にはご丁寧にも上記の内容がしっかり説明されている。(KINGレコードさんの側の、作品の質が落ちた作品のリリースへの批判への対策なのだろうか?)
まあ、それはともかく、この映画は所狭しと時計のコレクションの並ぶ豪邸(低予算なのでそこまでには見えない)に住む老伯爵夫妻の家に男2女1人の若い強盗が押し入るが、脅すだけで金品を奪う目論見は失敗し、老夫婦と使用人の男は、若者達に殺害されてしまう。屋敷から逃走したい彼らだが、外には凶暴なドーベルマンが放し飼いにされており、若者たちはやむなく死体の転がる豪邸で夜を明かすこととなる。(若者のリーダー格は、朝になれば何とかなる的なことを言ってるけど、犬はいなくならんような気がするが…)
80年代の若者と言えど、ホラーに出てくる連中のやることは同じ、目に触れないところに異動させたとはいえ、死体の転がる豪邸の2階でSEXに励むリーダー格の男と彼女であったが、時計コレクターの伯爵の死に際の執念からか時計が逆戻りし、時間が戻っていき若者たちの前に殺したはずの伯爵たちが姿を現すが…という当時としては比較的目新しいアイデアのホラー作品。若者たちが殺人者から一転、殺される側に回るアイデアは面白いが、緊迫度、残酷描写的にはちと弱い。正直オチも今一つだし、不思議な現象の謎解き要素も今一。
まあ、これも進化してきた現代のホラーを見た目から見るとそう感じるだけで、制作された80年代としては目新しいとも思えるし、自分もいろいろ80年代ホラーを見てきたが、80年代のホラー映画の中ではまずまず見れる部類の様な気がする(上から目線ですいません。)
一つだけ繰り返しになるけれど、フルチ作品だからと言って残酷描写は薄いのでそこを目的に鑑賞することはお勧めしません。フルチの80年代作品としては、「マーダロック」が謎解き要素が強く、エロ要素も含め、イタリアジャッロの正統の流れを組む名作。低予算の時代と言えどあの作品が撮れたのだから、あの作品からの相対評価を考えると2の評価になってしまうけれど、佳作の部類という感じかなという印象です。