お互いにとって唯一無二の特別な存在のはずと信じていた友が、自分と離れひとり遠い地で就職することを選んだ上に、更にはしばらくして自分に何の相談もなしに自殺していなくなってしまう。
お前にとって俺の存在って何だったんだよ、「その他大勢」と同じだったのかよ!と納得できなくて主人公の大賀氏が腹を立てる気持ちはわかる。
だけど、それで拗ねたりイジケたり他人に当たったりするのはカッコ悪い。僕がこの映画を見て一番イライラしたのは、大賀氏が、相棒がナンパしてきた女の子たちとか富山のクラブのホステスさんにすごくつっけんどんな態度を取ること。子供かよ!(大賀さん演技が上手い!)
作中の大賀氏も小林竜樹氏も、リア充の学生ではなかった感じだし、自分のことが好きでもなく自信もないように見える。いろんなネガティブな思いやコンプレックスを抱えつつ、お互いだけには弱いところも見せたし、傷を舐め合った時もあっただろう。輝かしい時間ではなくカッコ悪く情けない時間を共有したからこそ、大賀氏は相手との一体感を強く感じていたのではないかと思う。
その一方で、自分の思いと相手の思いに温度差があるというのはよくあることで、しかもそれはすごく苦しい。相手が女だったらやっぱり女はわからないよで無理矢理納得することもできるが、同じ男同士だから、より裏切られた感は強いかもしれない。
最終的に主人公は、題名のように「走る」のではなく「空を飛ぶ」喜びを見つけて新しい自分に脱皮していくのだが、その過程がロードムービー的に語られていく。
撮影や音楽はいつもの中川タッチ。トラックの荷台から空を飛ぶハンググライダーを見上げるシーンはじめ、映画の中で初めて体験するような新鮮でショットが随所にあって印象に残る。
とてもセンチメンタルなお話で、微妙な心象の変化を描写するには映画より小説の方が向いているのではと感じたりもするが、ここで主人公の気持ちがよく伝わってくるのは、大賀氏の素晴らしい演技によるところが大きいと思った。
本作を最初に見た時はやっぱりラストシーンの空が綺麗でカタルシスあるし感動したんだけど、久しぶりに見直してみて、最近の「息をひそめて」とか「静かな雨」と比べると、正直、やっぱり最近の作品の方がずっといいなと感じてしまった。
例えば美しい風景のシーンでも近作ではもっとサラッと自然な感じで作品に溶け込んでいる感じがするし、役者さんの演技も上手な人が多いと思う。作品が大人っぽいというか成熟してるよね。
でも本作は、「愛の小さな歴史」もそうだけど、ギクシャクしたところとかあっても今でも失われないみずみずしさというものを感じるし、中川監督の原点を感じられるのが貴重な作品だと思います。