<内容にふれています・・>
氷雨や雪の降る厳しい冬に始まり、日永の春、夏なのに寒いある日を経て・・・
「この半年間のできごとを心に刻んでおこう・・・彼のような男でも、上司の命令に従う他なかったことを。」と、この家の老人(ジャン=マリ・ロバン)のナレーションが入る。
1941年、北フランスの小さな村。
老人と姪(ニコラ・ステファーヌ)の住む家に、本職は作曲家のドイツ将校エーブルナック(ハワード・ヴェルノン)がやってくる。その事前調査からの一部始終が、とても量の多い(老人の)ナレーションと端正な美しい映像で几帳面に語られてゆく(この家の間取りも物語の要素だと思う)。
ドイツへの抵抗として・・自分たちの生活をいっさい変えず「彼」がいないように振る舞うと、暗黙のうちに決めたふたり。初めて迎え入れたとき以外、ノックにも答えず沈黙を守り通す(普段どおりに鍵もかけないので、彼は居間へ自由に出入りできるのだ)。
ガッチリした外見だがロマンチストな芸術家の彼。
「遠い国の姫君へのあこがれ」という、昔からのフランスへの恋心のような彼のモノローグはやがて、美しい彼女に向けた愛の告白へと変わってゆく。
『美女と野獣』の物語を重ね合わせて愛を語り・・・厳しさを増す独仏間の唯一の解決としての両国の「結婚」という言葉を、美しい横顔を見せて黙々と編み物を続ける彼女のうえに頻繁に降りそそぐ彼。。
パリ陥落の日まで続けたオルガンの練習を彼女はその日でパッタリとやめたという、楽譜を開いたままのバッハのフーガを彼が弾くオルガンの音色。
そこにいる人によって「異なった光を放つ」と彼のいう暖炉の炎の前で・・・
樅の木に重く降りつもる雄牛のようなドイツの冬に対比させ、細い枝にレースのような雪模様のフランスの冬を彼はエスプリ(精神)だという。。
ときに美しい詩の朗読のようなエーブルナックのモノローグ。
毎夜9時頃から始まるふたりのコーヒータイムへの彼の訪問は少しずつ長くなり、時計の針が9時50分を指す夜もあったが、彼女は彼の愛のモノローグに・・「ふるえる心に動揺しながらも・・・(←老人のナレーション)」沈黙を守り続ける。その姿があまりにもこのヒロインに似合うニコラ・ステファーヌもパルチザンだった。ジャン=ピエール・メルヴィル監督はユダヤの家に育つ、とブックレットにある。
休暇の取れた彼がやっと初めて見たパリの、凱旋門、ジャンヌ・ダルク像、セーヌ川、ノートルダム寺院、辻馬車を映し出したあと、再び同じ街を物々しい戦車、シャッターの閉じられたレストランとともに見せ・・・ハーケンクロイツの大きな旗が窓をおおうビルの一室で、フランスの「精神」を滅ぼすのは「義務」と熱狂的に語るドイツの軍人たちの様子に・・・・・彼のあこがれのフランスはいったいどうなってしまうのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この家での最後の日、彼は「(コーヒータイムの)モノローグ」をすべて忘れるよう、ふたりに告げる。
危険で過酷な前線への転属を申し出たという彼の「アデュー」に・・・(ジャケ写のあの)透き通るような目で見つめた彼女の彼への初めての言葉も「アデュー」。
スタンダール、ラシーヌ、ヴォルテール、ベルグソンなど・・・(ドイツが滅ぼすべきというフランスの精神)彼が口にした文学者、哲学者の名が耳に残るまま・・・<このあとネタバレします>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ opクレジットに使われたこの物語を綴った一冊の本のナチ占領下での「出版」を告げるラスト。