台湾映画が日本でももてはやされるようになったのは、ホウ・シャオシェン監督『悲情城市』(1989)あたりからだろう。その後は、実に素晴らしい台湾映画がたくさん日本にも紹介された。僕が個人的にベスト3と考えているのは、アン・リー監督『恋人たちの食卓』(94)、ツァイ・ミンリャン監督『愛情萬歳』(94)、エドワード・ヤン監督『カップルズ』(96)だ。
本作には、オープニングから目を奪われる。ラン・シャン演じる父親が料理を手際よく作っていくところが、リズミカルに描かれる。あとはひたすら面白いドラマに引き込まれて、あっという間の2時間4分だ。アン・リーが過去に撮った『推手』(91)、『ウェディング・バンケット』(93)も面白いが、本作が最もこの監督のうまさが際立った台湾ものの傑作だと思う。
いうまでもなく、その後『グリーン・デスティニー』(2000)がアカデミー外国語映画賞を受賞し、『ブロークバック・マウンテン』(05)ではアカデミー監督賞を獲得。『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(12)で2度目の監督賞にも輝いた。ちなみに、本作のDVDのパッケージを見ると、アカデミー外国語映画賞にノミネートされている。この時点でハリウッドはその才能に目をとめていたのか!
アン・リーは比較的、80~90年代的な台湾映画の呪縛から自由な人であった。自身も外省人でありながら、その「苦悩」や「屈託」一辺倒の作家ではなかった。それゆえに、彼の作品は今観ても不思議なくらい古びていない。そこには、時代や国境や人種をひらりと越えてしまうような伸びやかさが感じられる。だからこそ、活躍の場を早くからアメリカに定めたのだろう。その国際感覚あふれる稀有な作家性は、本作『恋人たちの食卓』にもよく表れていると思う。